卯木 孝
「人種差別、外交、国際関係」主旨(出版社ウエッブサイトより)
卯木氏は、国際関係論における人種偏見・差別、すなわちレイシズムの意義について、その教義としての概念と帝国主義との相互関係、国際関係学(IR)の発展における教義的役割、西欧およびアジア史におけるレイシズム思想の普及及び人種差別の実践が国家行動や外交の施行に影響を与えた様々なエピソードに焦点を当てながら、考察している。
先住民を抑圧した帝国・植民地の誕生、二つの世界大戦とそれに伴う民族浄化・大量虐殺、人種差別撤廃を求める国際抗議運動等、レイシズムが国際関係に及ぼした影響は明らかである。このような歴史があるにもかかわらず、大学で開講されるIR講座やIRの教科書でレイシズムの衝撃について言及されることはほとんどない。むしろ、権力への野望、他国等に対する恐怖感、無秩序な世界における安全保障の追求といった変数やテーマを強調する理論の枠組みを用いて、国家の行動を説明することが多い。本書は、レイシズムが国際関係史に甚大な影響を与えただけでなく、21世紀に入っても波及し続けていることを明らかにし、公共政策の立案者に人種差別・偏見の負の遺産を認識させることが必要であることを述べている。本書は、学生、公共政策の立案に携わる者等、そしてより寛容で公正な世界の構築に関心を持つ人々にとって、極めて重要な本である。
目次
序文 1. はじめに 「人種」と「レイシズム」の定義 2. 教義としてのレイシズムの発展 3. 国際関係におけるレイシズム 4. レイシズムと国際関係学(IR)の学問分野誕生 5. 白人至上主義と日本の台頭 6. 1905-1907年の日本人児童隔離と移民問題外交危機 7. 1919年パリ講和会議人種平等提案 8. 結論 21世紀の人種差別と国際関係
英国チャタムハウス(英国王立国際関係研究院)図書室 Book of the week (2023年4月12日)に選定
卯木孝 著書
Mergers, Acquisitions, and Global Empires
(Routledge, UK, 2013)
International Relations and the Origins of the Pacific War
(Palgrave MacMillan, UK, 2016)
Competition Laws, National Interests and International Relations
(Routledge, UK, 2019)
Racism, Diplomacy, and International Relations
(Routledge, UK, 2022)
卯木孝氏の書いた本で私は一番好きなのは、彼のMergers, Acquisitions, and Global Empires『M&Aと世界帝国』です。
この本は、M&Aの成功と帝国建設の成功の間に、独創的で巧妙な類似点を多数描いています。どちらも、買収・征服する側が買収・征服される側に対して階層的な支配と統制を行うことを特徴としているのだ。卯木氏は、M&Aの成功も帝国の成功も、ともに高いレベルの寛容さを価値観として共有していると主張する。このような寛容さは,1)被買収企業に対する不平等な差別的取り扱いの回避,2)文化的自律性の尊重と遵守,3)出自(買収側・被買収側)に関係なく適材適所の雇用,という形で現れている。この寛容さが、帝国の繁栄、被取得者の忠誠心、そして帝国の長期的な安定と継続に寄与しているのである。
卯木氏は、その主張に信憑性を持たせるような、生き生きとした実例とともに、十分な学術資料検証をもとにした歴史観を提供している。本書は印象深く残る、知的な満足感を与えてくれる、読んで楽しい一冊である。いいね!の親指マークを推奨します!
Dr. Patricia Robinson パトリシア・ロビンソン
Associate Professor 准教授
Hitotsubashi University ICS Business School一橋大学ICSビジネス・スクール
Competition laws, National Interests, and International Relations:
本書「競争法、国益、国際関係論」は、競争政策の法的分析を国際政治理論・思想(リアリスト学派、リベラル学派、権力移行学派)の文脈に位置づけ、この点で、競争と法・政策に関する法律学の分野、更には国際政治学の理論にユニークな 貢献を果たしていると言えるでしょう。
私は、法律・経済学の領域で競争法・政策に関 する著作を多く見てきた。法学と政治学が統合された著作は初めてであり、この点で、本書は競争法・政策の研究に新たなアプローチをもたらすものと思われる。
Dr. Mitsuo Matsushita 松下満雄
Professor Emeritus of the University of Tokyo 東京大学名誉教授
Former member of the WTO Appellate Body
世界貿易機関上級委員会元委員
卯木孝氏は、優秀で優れた国際政治学者である。
太平洋戦争に至る時期に関する前著「国際関係論と太平洋戦争の起源」(International Relations and the Origins of the Pacific War, Palgrave Macmillan, 2016)は、日本の真珠湾攻撃以前の日米関係や国際政治構造について、説得力があり新鮮な分析をしている。
卯木氏の最新著書、「人種差別、外交、国際関係」(Racism, Diplomacy, and International Relations, Routledge, 2022)は、人種差別への対処の仕方によって国家及び国際社会全体の盛衰が決まっていく中、必読の本である。卯木氏は、ウッドロウ・ウィルソン米大統領とベルサイユ条約の時代から国際政治における人種差別の国際関係の舞台での影響を追跡し、現在そして将来にわたって平和と安定に対する人種差別の挑戦が続くことを説得力を持って説いている。
Deborah Winslow Nutter, PhD デボラ・ウイィンズロー・ナッター
フレッチャー法律・外交政策学院
元上級准学長、政策教授、GMAPファウンダー
Former Senior Associate Dean and Professor of Practice and Founding Director, Global Master of Arts Program at The Fletcher School of Law and Diplomacy
国際関係論の学問分野では貴重且つ稀有な作品である本書、『人種差別、外交、国際関係』は、人種差別主義の歴史を追い、人種偏見に満ちた姿勢がいかに世界情勢だけでなく、我々人間をも形成してきたかを明らかにする。
一般的な大学カリキュラムでは教えられない、歴史の中の不都合な出来事を明らかにした本書は、21世紀の文脈で人種差別を理解したい人にとって、徹底的に研究された必読の書といえるでしょう。
Haru Yamada, PhD 山田晴, 博士 (PhD)
Sociolinguist 社会言語学者